みなさんどうも、カタアシです。
車椅子バスケを10年ほど選手として活動しています。
2020東京パラリンピックから、はや1年。車椅子バスケ界は、うれしいニュースの連続ですね。
東京パラリンピックでの準優勝という歴史上最高の結果から始まり、車椅子バスケの若きエース「鳥海 連志」がテレビ番組や、ベストドレッサー賞スポーツ部門で受賞するなどのメディアへの出演。
2022年、車いすバスケ男子U23世界選手権で史上初の金メダルを獲得するなど、明るい話題で溢れています。
しかし、車いすバスケが一般的な競技かというと、実際はまだまだ敷居が高くわからない部分が多いのも現状です。
私自身は、よく県内の小学校や中学、高校と地域のスポーツクラブなどに、体験会をさせて頂いています。
そのなかでも、子供たちから質問が特に多いこの「競技用車いす」について解説していきます。
日常用の車椅子と競技用の車椅子の違い5つ
日常生活用車いすは、「普段車」と呼ばれます。そして、車いすバスケ用車いすは、「バスケ車」と呼ばれます。
主な違いはこちら
- クイックなターンや動きのためにタイヤの角度が八の字
- 後ろに倒れないための転倒防止キャスター
- 強度を高めるため折りたためない固定車
- 足を守るためのバンパー
- 車いすに体を固定するベルト
見ただけでもかなり違いますが、一つ一つ詳しく解説していきます。
1.クイックなターンや動きのためにタイヤの角度が八の字
バスケ車はタイヤの角度(キャンバー角)が八の字になっています。
スタンダードな角度は16°~18°たまに20°の人もいます。このキャンバー角は、使う人の好みによって違います。
キャンバー角があることでレーシングカーのように急なカーブで、タイヤが床に踏ん張る方向に作用することで、グリップ力が上がります。
車いすバスケでは、急なターンやジグザグな動きが基本なので、キャンバー角はとても重要です。
数字が上がるほど、ターンやカーブでの安定性が上がり、ビタッ!!とぶれのない動きが出来ます。
しかし、デメリットもあり角度が上がる(タイヤが斜めに)なるほど、腕からタイヤまでの距離が広がって、漕ぎしろが減っていきます。
さらに、タイヤの幅も広がっていくので、選手と選手の間を通り抜けることが難しくなります。
逆にキャンバー角を減らしていくと、漕ぎしろが増えるぶん直線がスピードに乗りやすくなり、タイヤの幅が狭くなるので、狭い隙間も抜けるチャンスがあります。
しかし、角度が垂直に近くなるほど、ターンやカーブの安定性が無くなり、片輪が浮いてしまうなどのバタバタすることが多くなります。
じつは、タイヤに角度をつけたことで、選手同士の接触の時に、お互いの車輪で手を挟むことが無くなり、より安全にプレイが出来るようになりました。
普段車には、少しはキャンバー角はついていますが、車椅子の幅が広がると扉を通れないなどの不具合があるので、バスケ車ほどはついていません。
2.後ろに倒れないための転倒防止キャスター
バスケ車には後ろに小さな車輪があります。
この車輪は、転倒防止キャスターと呼ばれ、一つの場合と二つあるバスケ車もあります。これも好みです。
車いすバスケのブレーキはタイヤを直接握って、後ろに引っ張ることで止まります。手の皮はずる向けになります。シャンプーが染みるんですよ、これが!
後ろに引っ張るので、転倒防止キャスターがないとブレーキのたびに前が浮いて後ろにすってんころりです。
また、ターンやカーブとバック走の時には、この転倒防止キャスターに体重を乗せて軸にすることで素早く動くことが出来ています。
転倒防止キャスターが一つと二つの場合の違いは、安定性の部分が大きいです。
軸が一つの場合は、物理的に車体が軽くなるメリットと、ターンがコンパクトでクイックになります。ポイントガードや、素早い動きが売りの選手が多い印象です。
軸が二つの場合は、重くなる分ターンが安定します。軸が一つの時は、バタバタこけていたけど、二つのに乗るようになってからは、あまりこけなくなったとかは、あるあるです。
ちなみに、転倒防止キャスターの数は二つまでと、ルールで決まっているので、もし三つも四つもついていると試合前の車検で通りません。
試合前には審判員による車検がありまして、タイヤのサイズや座面の高さなど、細かくチェックされます。だめだとそのバスケ車には乗ることが出来ません。
普段車には、ついている方もいますが日常の段差を乗り越えるときに、前のキャスターをあげてウィリー走行しなければらならないため、ついていないか地面からあげてあります。
3.強度を高めるため折りたためない固定車
普段車は、車に積み込んだり飲食店などで、椅子に乗り移った時のためにキャンプ用の椅子のように、細くたためるようになっています。折りたためないように作られている日常用固定車も中にはいますが、ほとんどが折りたためます。
車いすバスケは、選手同士の接触がとても多いスポーツです。鉄の塊同士が試合中40分間衝突しているので、試合の後は首がむち打ちになったり、腰にダメージを受けたりと体に相当な負担がかかります。
当然、バスケ車にもダメージはあり、車体にひびが入ったりゆがむことは日常茶飯事です。
そのため、バスケ車はすべて固定車で、さらに車軸などの負荷がかかる部分は補強のパイプがついています。
完全にすべての個所が溶接されているものや、座る部分の上部とキャスターと車輪のついている下部の二つに分かれていて、座面の位置を前後に調整できる半固定車。
上部、下部に分かれていて、さらに高さもパイプの長さで変えられる全調整式もあります。調整したい場所のパイプや車体に数センチずつ穴が開いていて、穴同士を合わせてねじで固定して調整します。
どのタイプのバスケ車も、普段車のように細くたたむことはできませんが、パイプ同士が溶接されているので、力を伝えやすく、衝撃にも強く、たたむための余分な部品がないので軽くなっています。
しかし、それでも車体のゆがみやひび割れは避けられないので、「補強を増やしたいが、その分車体が重くなってしまう、う~~ん」っとジレンマを抱えてバスケ車を設計しています。
4.足を守るためのバンパー
バスケ車の足元には、バンパーと呼ばれる一本のパイプがUの字型についています。
役割としては足を怪我しないためですが、バンパーがあることで相手や相手の車椅子を傷つけない役割もあります。
バンパーがないと車椅子のキャスターなど鋭利な部分が飛び出てくるので、その状態で接触すると相手のタイヤをパンクさせたりなどして危険です。
基本的に車いすバスケの接触はバンパーどうしか、バンパーとタイヤになるので、緩やかに曲がっているバンパーは必須です。
このようにバンパーは、ガンガンぶつかっているのでダメージを受けやすく、カタアシ自身は試合中にバンパーが衝撃に耐えきれずボロッと取れたことがあります。
車いすテニスなど、相手と接触することのないスポーツはバンパーがない場合もあります。
5.車いすに体を固定するベルト
バスケ車には骨盤や膝、太ももを車体に固定するためのベルトがついています。
ベルトがなければ、全力疾走からのターンや激しい接触などで体が投げ飛ばされてしまいます。
このベルトの数やつける位置は選手それぞれ違います。
骨盤をがっちり固定するのが好きな人や腰を固定せず太ももだけ固定する人もいます。好みの部分が大きいですね。
車いすバスケは座っている座面からお尻を離すと反則になりますし、しっかりベルトで車体に固定することで、体からの力をダイレクトに車椅子に伝えることが出来るので、体がへこむほどきつく締めたりします。
ほかにも、左右どちらかに体重をかけてタイヤの片輪を浮かせて、高さを生み出す「ティルティング」という技もベルトのおかげで使えます。日本代表の、「 鳥海 連志 」の得意技です。
このベルトは、実は車椅子バスケ用のものではなく、スキーやスノボのビンディングを使っています。
スキー屋さんで、「車いすバスケに使うんです~~」って言うと驚かれます。
まとめ
今回は、体験会などで子供たちからの質問が多い「競技用車いすと日常用の違い」について説明しました。
選手ひとりひとりが違うように、バスケ車にもその人の特徴が出ますので、
「あの選手はキャンバー角が他の人よりついているから、ボールハンドラーだねっ!!」とか
「あの選手はスピードが武器だから、バンパーを短くして少しでも軽くしているんだな」など、
車いすバスケ玄人の目線で、車いすバスケを楽しんでください!!
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